リスパダール(一般名:リスペリドン)は抗精神病薬(主に統合失調症の治療薬)です。
抗精神病薬は双極性障害の治療薬や、抗うつ薬単独では効果が認められない場合に増強療法として用いられるようになってきており、抗精神病薬が統合失調症の治療薬というイメージではなくなってきています。
リスパダールを処方されると「自分は統合失調症なのか」と心配されることが多々ありますが、抗精神病薬の精神科での位置づけはかなり多様的であることを知っておいてもらえればと思います。
「リスパダール」の効果や特徴、副作用などについてご紹介します。
Contents
リスパダールの特徴
リスパダールは抗精神病薬であり、主に統合失調症の治療に用いられていますが、最近では、抗精神病薬は統合失調症のみならず双極性障害の治療薬、抗うつ薬の増強療法として用いられるため、多くの場面で使用されるお薬になってきています。
また抗精神病薬には第1世代と第2世代という新旧の分類があり、1996年に発売されたリスパダールは第2世代の抗精神病薬に位置しております。
新しい第二世代は第一世代と比べて副作用が少なく、抗精神病薬を処方するという障壁が低くなりました。
リスパダールの基本的な作用は、神経伝達物質である「ドーパミン」「セロトニン」を抑える事にあります。
統合失調症に代表される症状で、幻聴や妄想などはこれらの神経伝達物質が過剰になっており、リスパダールはこれらの神経伝達物質をブロックする作用によって精神症状を改善させます。
(※神経伝達は、基本的に電気活動ですが、神経と次の神経のやり取りは神経伝達物質を介して、その受け取りは「受容体」にて行っており、ドーパミンの受容体のうち「ドーパミン2受容体」、そしてセロトニンの受容体のうち「セロトニン2A受容体」にフタをして、ドーパミンやセロトニンを取り込みにくくしてしまう作用を持ちます。)
リスパダールの精神症状に対する効果
統合失調症では、ドーパミンの分泌量が過剰になってこのことが精神症状を引き起こすと考えられています。
リスパダールは、このドーパミン受容体(神経伝達物質の受け取り口)をブロックする事で幻聴・妄想などの「陽性症状」を改善させつつ、セロトニンをブロックする事で感情の平板化や無為自閉といった「陰性症状」を改善させます。
ドーパミン2受容体を強力にブロックする事で、これらの陽性症状を改善させるだけでなく、興奮、衝動性、易怒性などといった精神の高ぶりを抑える事もできるため、統合失調症だけでなく双極性障害にも使用されます。
リスパダールは第二世代の中ではある種の副作用は多め
***
【錐体外路症状(EPS)】
薬物によってドーパミン受容体が過剰にブロックされることで、パーキンソン病のようなふるえ、筋緊張、小刻み歩行、仮面様顔貌、眼球上転などの神経症状が出現する事。
【高プロラクチン血症】
薬物によってドーパミン受容体が過剰にブロックされることで、プロラクチンというホルモンを増やしてしまう副作用。
プロラクチンは本来は出産後に上がるホルモンで乳汁を出すはたらきを持つが、プロラクチンが高い状態が続くと、乳汁分泌や月経不順、インポテンツ、性欲低下などが生じる他、長期的には骨粗鬆症や乳がんのリスクにもなる。
過度にドーパミンをブロックしてしまうと今度は錐体外路症状(EPS)や高プロラクチン血症が起こってしまうことがあります。
つまり陽性症状を改善する作用に優れる一方で、錐体外路症状や高プロラクチン血症などの副作用も起こりやすいという側面があります。
昔の古い抗精神病薬である第1世代抗精神病薬と比べるとこれらの副作用の頻度は少なくなっていますが、第2世代の中ではリスパダールの錐体外路症状、高プロラクチン血症の頻度は多めであると言ってよいでしょう。
リスパダールは第2世代抗精神病薬の中で一番最初に発売されてます。
そのため、様々な剤型があり、ジェネリックもたくさん発売されているという利点もあります。
具体的には錠剤をはじめとして、OD錠(口腔内崩壊錠)、粉薬(細粒)などがあり、液体のお薬もあります。また持効性注射剤(LAI)といって、1回注射するだけで2週間効果が持続するタイプのお薬もあります(商品名:リスパダールコンスタ)。
更にリスパダールの活性代謝物のみを抽出し、ゆっくりと身体に吸収されていくように開発された剤型もあり(商品名:インヴェガ)、更にはその持効性注射剤もあります(商品名:ゼプリオン)。
以上からリスパダールの特徴としては次のような点が挙げられます。
【メリット】
- 強力な抗幻覚・妄想作用
- 剤型が豊富(錠剤、細粒、液剤、注射剤など)
- 陰性症状にも多少効果がある
- 第1世代と比べると全体的に副作用は少ない
【デメリット】
- 第2世代の中では高プロラクチン血症や錐体外路症状などの副作用が起こりやすい
- 第2世代の中では、陰性症状に対する効果は弱め
参考:リスパダールの作用機序
統合失調症は脳のドーパミンが過剰に放出されている事が一因だという説(ドーパミン仮説)に基づき、ほとんどの抗精神病薬はドーパミンを抑える作用を持ちます。
したがって抗精神病薬である「リスパダール」は、ドーパミンをブロックするのが主な作用なのです。
リスパダールは、抗精神病薬の中でもSDA(Serotonin Dopamine Antagonist:セロトニン・ドーパミン拮抗薬) という種類に属します。
SDAはドーパミン2受容体とセロトニン2A受容体をブロックする作用を持つお薬のことです。
ドーパミンのブロック
ドーパミン2受容体のブロックは幻覚妄想といった陽性症状を改善させます。
一方で過度にブロックしてしまうと、錐体外路症状や高プロラクチン血症といった副作用の原因にもなりえます。
セロトニンのブロック
セロトニン2A受容体のブロックは、無為・自閉、感情平板化などといった陰性症状を改善させます。
これはドーパミンの過度なブロックによって起こる錐体外路症状や高プロラクチン血症といったドーパミン系の副作用の発現を軽減させるはたらきもあることが報告されています。
適応疾患
リスパダールはどのような疾患に用いられるのでしょうか。
錠剤、注射剤など剤型によって少し異なりますが、基本的には添付文書にはリスパダールの適応疾患として「統合失調症」が挙げられています。
統合失調症の中でも特に幻覚妄想が前景に立っているタイプに適しています。
またリスパダールはドーパミン受容体を強力にブロックすることで、興奮・衝動・怒りなどを抑える作用にも優れるため、以下の例では主に鎮静させる目的で処方されることもあります。
- 躁状態にある方
- 認知症で怒りやすい方
- 自閉症スペクトラム障害やパーソナリティ障害などで衝動性の強い方
うつ病に対する効果「増強療法」
またリスパダールはうつ病の治療に用いられることもあります。
うつ病の治療薬としては通常は「抗うつ剤」が用いられますが、抗うつ剤のみでは不十分に改善しないうつ病患者さんに対しては第2世代抗精神病薬を少量加えるという治療法が用いられれる事があります。
これを増強療法(Augmentation)と言います。
このようにリスパダールは保険適応としては統合失調症にしか適応がありませんが、実際には双極性障害やうつ病、認知症、自閉症スペクトラム障害などの疾患にも用いられるお薬なのです。
抗精神病薬の中でのリスパダールの位置づけ
抗精神病薬にはたくさんの種類があります。
まず、抗精神病薬は大きく「第1世代」と「第2世代」に分けることができます。
第1世代というのは「定型」とも呼ばれており、昔の抗精神病薬を指します。第2世代というのは非定型とも呼ばれており、比較的最近の抗精神病薬を指します。
代表的な第1世代としては、セレネース(一般名:ハロペリドール)、コントミン(一般名:クロルプロマジン)などがあります。
これらは1950年代頃から使われている古い抗精神病薬です。
第1世代は作用は強力なのですが副作用も強力だという難点があり、特に錐体外路症状と呼ばれる神経系の副作用や、高プロラクチン血症というホルモン系の副作用が生じやすく、これは当時から問題となっていました。
また悪性症候群や重篤な不整脈などといった命に関わる可能性もある副作用が起こってしまうことも問題でした。
そこで第1世代の副作用の多さに対して改善を目的に開発されたのが第2世代の抗精神病薬だったのです。
第2世代は第1世代と同程度の作用を保ちながら、標的受容体への精度を高めることで副作用を少なくしているという利点があり、その最初のお薬がリスパダールなのです。
代表的な第2世代抗精神病薬SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)
MARTA(多元受容体作用抗精神病薬)
DSS(ドーパミン部分作動薬)現在では、まずは副作用の少ない第2世代から使う事が鉄則となっています。
第1世代を使うのは、第2世代ではどうしても効果不十分になってしまうなど、やむをえないケースに限られます。
SDA
【該当薬物】リスパダール、ロナセン、ルーラン
【メリット】幻覚・妄想を抑える力に優れる
【デメリット】錐体外路症状、高プロラクチン血症が多め(第1世代よりは少ない)MARTA
【該当薬物】ジプレキサ、セロクエル、シクレスト、クロザピン
【メリット】幻覚妄想を抑える力はやや落ちるが、鎮静効果、催眠効果、抗うつ効果などがある
【デメリット】太りやすい、眠気が出やすい、血糖が上がるため糖尿病の人には使えないDSS
【該当薬物】エビリファイ
【メリット】上記2つに比べると穏やかな効きだが、副作用も全体的に少ない
【デメリット】アカシジアが多め
リスパダールはこんな方におすすめ
リスパダールは、以下のような方にに向いているお薬です。
- 幻覚・妄想が主体の統合失調症の方
- 体重増加が心配な方
- 日中の眠気や鎮静を起こしたくない方(日中仕事をしている方など)
またリスパダールは剤型が豊富にあり、錠剤のみならずOD錠(口腔内崩壊錠)、細粒、内用液(液剤)があり、更には持効性注射剤(リスパダールコンスタ)という注射製剤もあります。
持効性注射剤であるリスパダールコンスタは2週間に1回注射すればいいため、毎日お薬を飲む必要がなく、飲み忘れの心配もありません。そのため、毎日お薬を飲むのがわずらわしい方、お薬の飲み忘れが多い方は、リスパダールコンスタに切り替えてみるのも方法の1つです。
※注射剤は、適応は統合失調症のみとなります。
半減期と効果時間について
半減期は、お薬の血中濃度が半分になるまでの時間です。
血中濃度が半分まで減ると薬の効果がある程度なくなってくるため、半減期はお薬の作用時間ととらえてもおおかた間違いではないでしょう。
リスパダールの半減期は抗精神病薬の中では短く、服薬してから1時間ほどで血中濃度が最高値になり半減期は約4時間と報告されています。
内服後1時間で血中濃度が最大になり、そこから4時間で半分に濃度が落ちますので、理論上は効果が出るまでは1時間、効果時間(作用時間)は4時間といったイメージになります。
しかし更に詳しくみると、リスパダールは身体に入ると肝臓で代謝されて、「9-ヒドロキシリスペリドン」という物質になります。
9-ヒドロキシリスペリドンはリスパダールとほぼ同程度かやや弱い活性があることが実験において確認されています。
そしてこの9-ヒドロキシリスペリドンは、約3時間ほどで血中濃度が最大になり、半減期は21時間と報告されています。
このリスパダールの半減期と、代謝産物(9-ヒドロキシリスペリドン)の半減期を合わせて考えると、実際には半日ほど薬の効果は続くことが予測されます。
リスパダールの副作用の特徴
抗精神病薬は、その開発の進化によって大きく2世代に分けられます。
1950年頃から使われている古いタイプである、第1世代(定型)抗精神病薬と、1990年頃から使われている新しいタイプである第2世代(非定型)抗精神病薬です。
第1世代は、強力な作用がありますが、副作用も強力なのが難点でした。
そのため、副作用の軽減を目指して開発されたのが、第2世代で、リスパダールがそれにあたります。
第2世代は、第1世代と比べると以下のような副作用が出にくくなっています。
- 錐体外路症状(ふるえなどの神経症状)
- 高プロラクチン血症(ホルモンバランスの異常で生じる副作用、男性なのに女性様の乳房になったり乳汁を分泌したりなど)
- 悪性症候群(高熱で筋肉が壊死して、死に至ることもある危険な副作用)
危険な副作用、不快な副作用の頻度は下がったものの、逆にこれまでにはなかった副作用があります。
血糖やコレステロールなどを上昇させ、それに伴い動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞などの発症リスクを上げるといった副作用です。
総合的に見れば、第2世代の方が安全性は高いと考えられており、現在の統合失調症治療はリスパダールを含む第2世代の抗精神病薬から始めることが原則となっています。
<第2世代の抗精神病薬>
- SDA:セロトニン受容体とドーパミン受容体をしっかりとブロックする作用に優れる
- MARTA:様々な受容体をゆるくブロックする
- DSS:ドーパミン受容体を部分的にブロック、増強することによりドーパミン量を安定させる
この中でリスパダールはセロトニン-ドーパミン拮抗薬(SDA:Serotonin Dopamine Antagonist)という種類に属します。
セロトニンやドーパミンは神経伝達物質で、神経間のやりとりに関与する物質です。
受容体を受け取り口として神経伝達物質のやり取りを行います。
SDA(リスパダール)はセロトニン2A受容体とドーパミン2受容体をブロックするはたらきに特に優れ、その他の受容体にはあまり作用しません。
統合失調症はドーパミンの過剰分泌が原因の一つだと考えられているため、ドーパミンを遮断してくれるリスパダールは効率よく統合失調症の症状を抑えてくれます。
また、それ以外の余計な受容体に作用しないので、副作用も少なくなっています。
しかし、リスパダールはドーパミン2受容体を強力にブロックする反面、過剰にブロックしてしまうと副作用を起こしてしまいます(具体的には、第一世代の抗精神病薬の副作用であるふるえやホルモン異常など)。
また、アドレナリン1受容体への影響がやや強く、これによって起立性低血圧によるふらつき、性機能障害(射精障害、勃起障害など)を起こしやすいという特徴があります。
- 第1世代と比べると全体的に副作用は軽め
- しかしドーパミンを遮断しすぎることで、第二世代の中ではドーパミン欠乏の副作用が起こりやすい(錐体外路症状(EPS)や高プロラクチン血症など)
- アドレナリン1受容体遮断によるふらつき、性機能障害が多い
- その他の副作用(体重増加や口渇・便秘、眠気など)は少なめ
リスパダールの主な副作用
リスパダールの主な副作用についてひとつずつみていきましょう。
Ⅰ.錐体外路症状(EPS)
統合失調症は脳のドーパミン過剰で発症すると考えられていますが、おくすりで逆に脳のドーパミンを少なくしすぎてしまうと生じるのが、錐体外路症状です。
リスパダールの錐体外路症状の頻度は、定型と比べると少ないものの、非定型の中ではやや多めになります。
錐体外路症状とは以下のような無意識に身体が動いてしまう症状をいいます。
- 振戦(手先のふるえ)
- 筋強直(筋肉が硬く、動かしずらくなる)
- アカシジア(足がムズムズしてじっとしてられなくなる)
- ジスキネジア(手足が勝手に動いてしまう、口をもごもごするなど)
命に関わるものではありませんが非常に不快な症状です。
錐体外路症状は過剰なドーパミンブロックによって起こりますので、特に高用量のリスパダールを服用している場合に起きやすいと言えます。
対処法
基本リスパダールの減薬を行うのが良いのですが、病状的にどうしても減薬ができないというケースもあるでしょう。
最も多くみられる対処法としては別の薬で症状を軽減させるやり方です。
場合によっては、リスパダールを処方すると同時にお守り替わりに一緒に処方している先生もいらっしゃいます。
抗コリン薬と呼ばれるお薬で具体的にはビペリデン(商品名アキネトン)やプロフェナミン(商品名パーキン)、トキヘキシフェニジル(商品名アーテン)などです。
抗コリン薬によってアセチルコリン神経の活性を抑制してあげると、ドーパミン神経の活性が相対的に上がり、錐体外路症状に効果があるのです。
ただ、お薬による副作用を薬で制するのはあまり推奨できる方法ではありません。
お薬の量がどんどん増えてしまいますし、抗コリン薬にだって別の副作用があるからです。
基本的には減薬できないかトライするのと、難しければ他の第二世代の抗精神病薬に変更を検討するのが良いと思います。
Ⅱ.高プロラクチン血症
高プロラクチン血症というのは、脳下垂体から出る「プロラクチン」というホルモンの量が多くなってしまうことをいいます。
これで何が問題になるかというと、プロラクチンというホルモンが本来何をしているかを理解していただく必要があります。
本来は授乳中の女性で上昇しているホルモンで、授乳中の女性は胸が張り、乳汁が出て、月経が止まります。
高プロラクチン血症になるとこれと同じ状態になるため、胸の張り、乳汁分泌、月経不順、性欲低下などが生じます。
リスパダールではこれが男性にも起こってしまい、男性であれば女性化乳房、性欲低下、勃起障害などが生じてしまいます。
原因は、リスパダールによってドーパミン受容体がブロックされると、プロラクチンがたくさん出てしまうというもともとの機能によります。
実は問題はこれだけではありません。
一番の問題は、プロラクチンが高い状態が続くと乳がんになる可能性が高くなります。
また、骨代謝に影響を与えて骨粗しょう症にもなりやすくなります。
そのため、高プロラクチン血症は、単なる乳房の症状というだけではありませんので、速やかに対処することが望まれます。
リスパダールで高プロラクチン血症が出現した時は、原則としてリスパダールを中止する必要があります。
Ⅲ.ふらつき
リスパダールのヒスタミン受容体のブロック作用によって眠気が生じてふらつくこともありますし、アドレナリン1受容体のブロックは血圧を下げてしまうため、これもふらつきの原因となるなど複数の要因で起こります。
ふらつきがひどい場合にはリスパダールの減薬・あるいは変薬を行います。
また昇圧剤(リズミック、メトリジンなど)など血圧を上げるお薬で対応することも可能です。
Ⅳ.体重増加
体重増加、太ってしまうのは精神科のお薬ではよくある副作用ですが、特に抗精神病薬で顕著です。
これは抗精神病薬が、ヒスタミン1受容体、セロトニン2C受容体をブロックして代謝を抑制し、また血糖やコレステロール濃度が上昇すること原因となります。
リスパダールは、ヒスタミン1受容体への影響は軽度であり、体重増加は比較的すくなめのはずですが、長期間服薬を続けていれば徐々に体重増加は起こってしまいます。
抗精神病薬は、血糖やコレステロールを上げると報告されており、これは動脈硬化を進行させ心筋梗塞や脳梗塞発症のリスクとなります。
リスパダール内服中は、食生活の偏りや運動不足などの太りやすい習慣がある場合は、そこを是正することが重要ですが、結局は減薬しない限り痩せれない例もあります。
薬を中止すればいくらか痩せますが、勝手に戻ることはないので日ごろから十分注意しておくのが良いでしょう。
Ⅴ.口渇、便秘(抗コリン作用)
抗コリン作用もまた多くの精神科のお薬で認められる作用で、お薬がアセチルコリン受容体に結合して神経伝達をブロックしてしまうことで生じます。
口渇や便秘が代表的ですが、他にも尿閉、顔面紅潮、めまい、悪心、眠気なども起こることがあります。
リスパダールの抗コリン作用は弱めであり、これらの副作用の頻度は少なめです。
抗コリン作用への対応策としては、減薬が一番ですがそれができない場合、抗コリン作用を和らげるお薬を処方します。
- 便秘に対しては下剤(マグラックス、アローゼン、大建中湯など)
- 口渇に対しては漢方薬(白虎加人参湯など)
Ⅵ.眠気
眠気は、主にヒスタミン受容体をブロックすることで生じます。(他にもアドレナリン受容体やセロトニン2受容体なども多少関与している考えられています。)
リスパダールはヒスタミン受容体への影響は少ないため、眠気の頻度は多くはありません。
日中にどうしても眠気が出てしまう場合には、飲み初めであれば1-2週間で身体が慣れて眠気が出なくなる可能性もあります。
症状が続く場合には用量の調整が必要になります。
お薬そのものを減量する相談を主治医とするか、1日2回朝夕で内服するお薬ですから、朝を少な目、夕に量を多めにするなどの工夫も可能です。
Ⅶ.不整脈
抗精神病薬の中でも古い第1世代に多い副作用で、リスパダールなどの第2世代では稀な副作用になります。
特に注意すべきなのがQT延長という心電図上の変化です(この変化は、無症状で症状がでるときはすでに危険な不整脈を起こした時です)。
これを放置していると致命的な不整脈を起こす可能性があります。
抗精神病薬を飲んでいる間は、心電図検査は重要です(健診を受けている方はその心電図で十分わかります)。
Ⅷ.悪性症候群
悪性症候群は、ドーパミン量の急な増減が誘因となることが多く、急な減薬・増薬によって生じることがあります。
第2世代の抗精神病薬であるリスパダールではほとんど生じませんが、可能性は「0」ではありません。
悪性症候群では、
- 発熱(高熱)
- 意識障害(意識がボーッとしたり、無くなったりすること)
- 錐体外路症状(無意識のうちに身体の一部がうごいてしまう症状。筋肉のこわばり、四肢の震えや痙攣、よだれが出たり話しずらくなるなど)
- 自律神経症状(血圧が上がったり、呼吸が荒くなったり、脈が速くなったりする)
- 横紋筋融解(筋肉が破壊されその影響で筋肉痛だけでなく腎不全、透析の原因になる)
などが生じ、致命的になってしまうこともあります。
3.他の抗精神病薬とリスパダールの副作用比較
抗精神病薬 | EPS 高PRL血症 | 体重増加 | ふらつき | 性機能障害 | 眠気 | 便秘・口渇 |
---|---|---|---|---|---|---|
リスパダール (SDA) | +++ | ++ | ++ | ++ | + | ± |
インヴェガ (SDA) | ++ | + | + | + | + | ± |
ロナセン (SDA) | +++ | ± | ± | ± | ± | + |
ルーラン (SDA) | ++ | + | + | + | + | ± |
ジプレキサ (MARTA) | ++ | ++++ | ++ | ++ | ++++ | +++ |
セロクエル (MARTA) | + | ++++ | ++ | ++ | ++++ | + |
シクレスト (MARTA) | + | + | + | + | ++ | ± |
エビリファイ (DSS) | ++ | ± | + | + | ± | ± |
レキサルティ (SDAM) | + | ± | ± | ± | + | ± |
セレネース (定型) | ++++ | + | +++ | +++ | + | + |
コントミン (定型) | +++++ | +++ | ++++ | ++++ | +++ | ++++ |
*EPS・・・錐体外路症状 *高PRL・・・高プロラクチン血症 |
リスパダールの副作用の特徴として、第一世代の抗精神病薬よりは副作用は少ないものの、新しい世代の中では錐体外路症状や高プロラクチン血症はやや多め、体重増加や眠気はときに認めるということが言えます。
リスパダールによる眠気の原因と対処法
リスパダールで眠気が生じるのは「抗ヒスタミン作用」というはたらきが主な原因です。
抗ヒスタミン作用というのは、リスパダールがヒスタミンという神経伝達物質の働きを抑えてしまうことで生じる作用です。
花粉症やアレルギーのお薬に「抗ヒスタミン薬」があります。
抗ヒスタミン薬も、ヒスタミンのはたらきをブロックする作用を持ち眠気が強く出てしまうことは飲んだことがある人ならわかるでしょう。
同じ原理でリスパダールも眠気を引き起こします。
ただ、リスパダールはヒスタミンへの影響は比較的少なく、リスパダールは眠気が少ないおくすりになっています。
他の抗精神病薬との眠気の起こりやすさの比較
抗精神病薬 | 眠気 |
---|---|
リスパダール (SDA) | + |
インヴェガ (SDA) | + |
ロナセン (SDA) | ± |
ルーラン (SDA) | + |
ジプレキサ (MARTA) | ++++ |
セロクエル (MARTA) | ++++ |
シクレスト (MARTA) | ++ |
エビリファイ (DSS) | ± |
レキサルティ (SDAM) | + |
セレネース (定型) | + |
コントミン (定型) | +++ |
*EPS・・・錐体外路症状 *高PRL・・・高プロラクチン血症 |
眠気への対処法
様子を見る
まだリスパダールを飲み始めたばかりなのであれば、少し様子をみるのが最も良い選択肢です。
幸いお薬の副作用は、時間が経つと身体が慣れてきて眠気は改善することがあります。
他のお薬との飲み合わせに問題はないか
一緒に飲んでいる薬(飲み合わせ)によっては、リスパダールの副作用を強くしてしまうことがあります。
多いのはアルコールで、飲酒をしながらリスパダールを飲んでいたら、 血中濃度が不安定になるため眠気が強く出る可能性があります。
他にもリスパダールの作用・副作用を増強してしまうおくすりはいくつかあります。
例えば、CYP2D6の阻害作用を持つおくすりはリスパダールの血中濃度を上げてしまうことが報告されています。
多くの抗うつ剤(SSRIやSNRI、NaSSAなど)はCYP2D6の阻害作用を持ちますので、これらを服用している場合は、リスパダールはより少量でも良いかもしれません。
これらを一緒に服薬してはいけないわけではありませんが、両方服薬している場合は相互作用するということも考えながら服薬量を決める必要があります。
その他、相互作用するおくすりもありますので、主治医とよく相談にて服薬内容を決めていきましょう。
服用時間を変える
リスパダールは添付文書には「1日2回の服用」と記載されています。
眠気で困っているのであれば、眠気が出てしまうと特に困る時間に、薬の血中濃度のピークが来ないようにするのが良いでしょう。
飲む時間を工夫することで、変わることがありますの試してみる価値はあります。
減薬・変薬をする
リスパダールの効果を感じているのであれば、薬を変えてしまうのはもったいないので、まずは量を少し減らしてみてもいいかもしれません。
量を少し減らしてみて、症状の悪化も認めず、眠気も軽くなるようであればその量で維持していきましょう。
また、パリペリドン(商品名:インヴェガ)やリスペリドン持効性懸濁注射液(商品名:リスパダールコンスタ)に変更するのも有効な方法です。
※リスパダールの副作用を少ないように改良したのがインヴェガになります。
リスパダールで太ってしまった場合の対処法・太らないために
精神科のお薬の多くは太るという副作用があり、リスパダールも例外ではありません。
太る可能性のあるおくすりですがその程度は同種類の第2世代抗精神病薬の中では、やや少なめではあります。
リスパダールを内服をする前に「太る可能性がある」と知っておくことは大切です。
特に若い方や女性は体重増加に過敏であり、太ってしまうと大きなショックを受ける方は少なくありません。
やめればすぐに戻るという類の副作用でもなく、お薬をやめた後もダイエットは必要です。
太ってしまう2つの作用
主に「抗ヒスタミン作用」と「代謝抑制作用」が原因です。
抗ヒスタミン作用とは、抗精神病薬がヒスタミン1受容体をブロックしてしまうことで生じます。
ヒスタミンには食欲を抑えるはたらきがあり、ヒスタミン受容体がお薬によってブロックされてしまうと食欲を抑えることができなくなるため、食事量が増えてしまい、太ってしまうのです。
同時に代謝を落とす方向に働くため、脂肪が燃焼しにくくなり、薬を飲む前と同じ量の食事であっても体重増加を引き起こしてしまうのです。
リスパダールはまだましな方かもしれない・・・
リスパダールは抗精神病薬の中では、体重増加の程度はやや少なめではあります。
抗精神病薬 | 体重増加 |
---|---|
リスパダール (SDA) | ++ |
インヴェガ (SDA) | + |
ロナセン (SDA) | ± |
ルーラン (SDA) | + |
ジプレキサ (MARTA) | ++++ |
セロクエル (MARTA) | ++++ |
シクレスト (MARTA) | + |
エビリファイ (DSS) | ± |
レキサルティ (SDAM) | ± |
セレネース (定型) | + |
コントミン (定型) | +++ |
あくまでも目安で、リスパダールだから大丈夫というわけでもありません。
リスパダールでも油断していると10㎏以上太ったという方は多くいます。
リスパダールで太ってしまった時の対処法
副作用で太る太らないに限らず、生活習慣には注意が必要です。
薬を飲む前までより食欲が出てしまいやすいですし、同じ量を食べていても太るように体質が変わっています。
食事量、間食に中止しつつ身体はなるべく動かすようにしたいです。
特に、症状が改善してお薬を減薬していく際には元の体型にもどるためには食事と運動は必須です。
リスパダールの量を減薬
もし精神状態が安定しているのであれば、 減薬は賢明な選択と言えます。
ここも注意が必要ですが、お薬を減らしたからと言ってその分体重が落ちるわけではありません。
食事に気を付けて、最低限身体は動かす必要があります。
離脱症状とは?
リスパダールを減らした際に生じる様々な症状を一般的にリスパダールの離脱症状と呼びます。
薬の濃度の変動によって起こる諸症状(後述)は、再度リスパダールを内服すれば速やかに改善します。
ただし、リスパダールをはじめとした抗精神病薬は、よほど無茶な減薬・断薬をしなければ離脱症状が出ることはありません。
むしろ急激なお薬の変化によっておこる症状は「悪性症候群」のほうがリスクとしては高いかもしれません。
離脱症状によっておこる症状とは
離脱症状として、リスパダールに特徴的なものはなく、他のお薬と同様の離脱症状が生じます。
- 不眠
- 不穏
- 興奮
- 発汗
- 吐き気
- 食欲不振
- 下痢
離脱症状の対処法
離脱症状を起こしてしまったほとんどのケースが、「自分で勝手に断薬した」「自分の判断で量を調整した」ときです。
自己判断で減薬・断薬してしまい、離脱症状が出てしまった時は主治医に報告しましょう。
中には怒る医師もいるかもしれませんが、減薬したいという意思を伝えることは重要です。
副作用のせいなのか、調子が悪くなく減らせるか試したかったのか、減薬・断薬にはかならず原因があるはずです。
症状が軽ければ様子をみる
離脱症状が起こってしまっても、何とか様子をみれそうであれば、1~2週間くらいみることは重要です。
離脱症状は、急な減薬・断薬で身体に反応した結果起こっています。
少し時間が経って身体が慣れてくれば、離脱症状も自然と改善していきます。
一旦元の量に戻す
離脱症状がつらく、様子を見ることが難しそうであれば、一旦減薬・断薬前の量に戻します。
基本、量を元に戻せば離脱症状は治ります。
離脱症状ではなく症状の再発かも
リスパダールは離脱症状が少ないお薬です。
そのため、減薬や断薬で離脱症状が起こった場合、「これは本当に離脱症状なのか?」と考えてみることは大切です。
特に主治医の指示のもとでしっかりと減薬・断薬を行っている場合は、離脱症状が起こることは稀です。
しかし、不安が強くなったり不眠になったり精神的に不安的になる場合、それは離脱症状ではなく、リスパダールが減ったことで再燃しているだけなのかもしれません。
離脱症状なのか、減薬の影響なのかは正確に区別するのは難しいでしょう。
ジェネリック医薬品「リスペリドン」について
最初に開発し、承認後に発売する許可を得た新しい薬効成分を持つお薬を「先発医薬品(新薬)」といいます。
先発医薬品の開発には、十数年にもおよぶ長い研究期間と莫大なコストがかかります。
ほとんどが海外メーカー含め大手の医薬品メーカーに限られてしまいます。
先発医薬品を開発した企業は、医薬品の構造や製造方法、用途について特許権を取得し、特許期間中の20年間はその薬の製造・販売を独占することができます。
先発品の特許が切れ(開発中に特許を取得するので、販売後10年前後で特許切れになることが多い)、他の医薬品メーカーがその技術を借りて製造・販売したものを「ジェネリック医薬品(後発医薬品)」といいます。
リスペリドンの場合、リスパダールが先発医薬品で1996年にヤンセンファーマから発売されているお薬です。
リスペリドンは2010年頃より後発品として販売が開始されているお薬です。
ジェネリックの3つの特徴をみてみましょう。
1.薬価が安い
先発品に比べてジェネリック医薬品の方が薬価が安いというメリットがあります。
処方箋の「後発医薬品に変更不可」の欄にチェックと医師のサインがされてなければ、自動的に薬局でジェネリックに変更されて出されることが多いはずです。
クリニックによってもしくは医師によってジェネリックに対する考え方に違いがありますが、今は基本的にジェネリック医薬品を可としていることが多いと思います。
- リスパダール細粒1% 231.1円
- リスペリドン細粒1% 72.2円-128.2円
- リスパダール錠1mg 26.8円
- リスペリドン錠1mg 9.9円-14.5円
- リスパダール錠2mg 46.7円
- リスペリドン錠2㎎ 12.1円-25.7円
- リスパダール錠3mg 60.2円
- リスペリドン錠3mg 20.2円-38円
- リスパダール内用液1mg/ml 0.1% 74.7円
- リスペリドン内用液1mg/ml 31.6円-49.7円
- リスペリドン内用液0.5mg・0.1%・0.5ml 22.2円
- リスペリドン内用液2㎎・0.1%・2ml 62.5円
- リスペリドン内用液3mg・0.1%・3ml 88.6円
2.成分は同じでも製造方法は違う
ジェネリック医薬品は先発品と成分は同一ですが、コーティングが異なるので苦みの感じ方や飲み安さが異なることがあります。
ただし同じ薬効のはずなのですが、ジェネリックに切り替えることであまり調子が良くなくなったとか、副作用が出たということもなくはありません。
これはお薬の製造方法や製剤工夫が会社によって異なるためです。
もちろん先発品と同じように効果の試験をクリアし、血中濃度の変化(薬物動態)も同等になるように設計はされています。
もちろん同じ成分であっても、「ジェネリックで大丈夫なのかな?」と精神的な影響もあるとは思います。
本当に同じ成分・同じ薬効?
先発品の持つ特許のうち、新しい成分に与えられる「物質特許」、その成分に対する新しい効能・効果に対して与えられる「用途特許」の2つの特許が切れてジェネリック医薬品を製造・販売することができるようになります。
ところがあくまでその成分の存在と効能の特許技術を利用するのみであり、先発品が持つ他の特許(例えば製造方法に与えられる「製法特許」、薬を製剤する上での工夫「製剤特許」など)も存在します。
有効期間が残っている場合もありますし、ここまで技術を借りるとジェネリック医薬品なのに先発品と変わらない価格になってしまうかもしれません。
とすれば製造方法や薬のコーティング部分に使われる添加物などを完璧に先発医薬品と同じにすることが実はできないのです。
同じ主成分が同じ量だけ入っていたとしても、実際には薬が吸収される速度や、有効成分が分解される状態が先発品とは多少異なる可能性があるのです。
これによって「効果」や「副作用」の違いが出うるのです。
それでもジェネリック医薬品が先発医薬品と変わらない効果をうたっています。
「有効性の試験」において統計学的に15%の差は「差が無い」としているので、厳密には10%前後の差異があるものとみなした方がよいのです。
3.間違えやすいお薬名
外来で飲んでいる薬のことをたずねると「アメルです!」とお答えいただきますが、「アメル」はジェネリック医薬品の販売メーカー名であり、お薬の名前ではありません。
リスペリドンは10社以上の会社から製造販売されています。