向精神薬(精神科で用いるお薬)で知っておくべき副作用の1つに「セロトニン症候群」があります。
セロトニン症候群は向精神薬の中でも、特にレクサプロなどの抗うつ剤で生じる事の多い副作用です。
セロトニン症候群はお薬の服用後の早い時期に認められる事が多く、また安全性が優れると言われている新しい抗うつ剤(レクサプロなど)でも生じる可能性のある副作用なのです。
ここではセロトニン症候群について詳しくご紹介しましょう。
Contents
セロトニン症候群とは
セロトニン症候群(Serotonin Syndrome)は、向精神薬の中で特に抗うつ剤で生じる事の多い副作用です。
セロトニン症候群は、神経伝達物質である「セロトニン」が急激に増える事で生じます。
うつ病や不安障害といった疾患は、その原因の1つとして「脳のセロトニンが減少している事」が指摘されています。
抗うつ剤は脳のセロトニンを増やす事でうつ病・不安障害を改善させるはたらきを持ちます。
抗うつ剤によって適正にセロトニンが増えてくれれば多少の副作用ですむところが、特に高容量で抗うつ剤が体内に入るなどすると身体のセロトニン濃度が急激に上昇してしまう事があります。
急激にセロトニンが増えると身体に支障が生じ、これによって起こる一連の症状をセロトニン症候群といいます。
セロトニン症候群の原因
セロトニン症候群は身体のセロトニン濃度が急激に上昇する事で生じますので、セロトニンを増やす作用を持つお薬の服用が原因になります。
特にお薬を飲み始めたばかりの時が最も起こりやすく注意が必要です。
抗うつ剤をある程度服用して慣れてくると薬の量を増やしてもセロトニン症候群を起こすリスクは下がります。
これが抗うつ剤は少量から開始するという理由なのです。
またセロトニン症候群は、セロトニンの量が増えれば増えるほど発症するリスクは当然上がりますので、多剤服用している場合にもセロトニン症候群のリスクを理解しておく必要があるでしょう。
セロトニン症候群を起こすお薬
セロトニン症候群は身体のセロトニン量が急に増える事が原因ですから、主にセロトニンを増やす作用を持っている「抗うつ剤」が原因薬剤となりやすいのです。
抗うつ剤にも様々な種類がありますが、現在うつ病・うつ状態に第一選択薬となっているお薬があります。
- SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
- ルボックス・デプロメール(一般名:フルボキサミン)
- パキシル(一般名:パロキセチン)
- ジェイゾロフト(一般名:セルトラリン)
- レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)
- SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
- NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)
いずれもセロトニン症候群を引き起こす可能性はありますが、セロトニンを集中的に増やすSSRIがセロトニン症候群を一番生じやすい抗うつ剤となります。
特にレクサプロは、開始量がすでに治療量というお薬ですからときにセロトニンが急激に増える反応を起こす方がいらっしゃいます。
抗うつ剤以外にも注意
また抗うつ剤以外にも注意すべきお薬やサプリメントがあります。
- セントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)
- トリプタン製剤
- メジコン(一般名:デキストロメトルファン)
うつ症状を改善させるサプリメントとして販売されていますが、セロトニン活性を高める作用がある事が分かっています。抗うつ剤との併用に注意しましょう。
偏頭痛の治療薬として使われているお薬で、脳血管のセロトニン受容体を活性化させる事によって頭痛を改善させるお薬です。
咳止めのお薬ですが、セロトニンの濃度を上げる作用がわずかにあるため生じるリスクが「0」ではありません。
セロトニン症候群で起こる症状
代表的な症状には、以下のようなものがあります。
- 精神症状(イライラ、不安、意識障害など)
- 自律神経症状(発熱、発汗、心拍数増加、呼吸促拍、腹痛など)
- 神経症状(振戦、筋硬直など)
セロトニン症候群が一番生じやすいのは、「セロトニンを増やすお薬を飲み始めた時」です。お薬を初めて服用する時というのは、身体に変化が生じるため、いくら少量から始めても一定期間身体が対応しきれない事があります。
実際、セロトニン症候群はSSRIなどのセロトニンを集中的に増やす作用を持つお薬の服用をはじめて、24時間以内に発症することがほとんどである事が報告されています。
セロトニン症候群の診断
〇 セロトニンを増やすお薬の服薬歴
〇 下記の項目のうち、1つ以上に該当する
- 自発的なミオクローヌス
- 誘発クローヌスと興奮あるいは発汗
- 眼球クローヌスと興奮あるいは発汗
- 振戦と腱反射亢進
- 筋強剛
- 体温が38℃以上で眼球クローヌスないし誘発クローヌス
(*ミオクローヌス:突然生じる筋肉のピクッとした収縮)
セロトニン症候群を起こさないために
セロトニン症候群の多くは発症しても重篤化せず、時間と共に自然と落ち着いています。
しかし中にはイライラやソワソワ、興奮、不安などから自傷行為や自殺行動に至ってしまう例もあるので楽観視はできません。
最大の予防は、徐々にお薬に身体を慣らしていくことにあります。
セロトニンの量を急に増やさない(少しずつ増やす)、身体が早く対応できるような服用法を守る(用法を守って服用する)事が大切です。
特に抗うつ剤を飲み初めの時は、少量のためあまり抗うつ効果を期待することはできません。
早く症状を落ち着けようと増やしたりしても意味がないばかりかセロトニン症候群を引き起こす可能性がある事は知っておいて欲しいと思います。
またセロトニンの量が激しく増減するのもセロトニン症候群のリスクとなります。
これを避けるためには、飲み忘れに注意しなくてはなりません。
またセントジョーンズワートなどのサプリメントでもセロトニンを増やすことがわかっていますので安易にサプリメントだからと油断しないことも賢明です。
セロトニン症候群の治療法
セロトニン症候群の症状が軽い不快感程度であればお薬を続けていくうちに身体が慣れて症状は改善していきます。
ただし自傷行為・自殺行動などに至ってしまうこともあるため、特にイライラや衝動性、じっとしていられない感覚(焦燥感)が出た場合にはすぐに中止して(飲み始めたばかりの場合)、主治医に相談しましょう。
セロトニン症候群の治療の原則としては、原因薬の中止が必要になります。
しかしある程度の期間、高用量の抗うつ剤を服用している場合、急に中断するとセロトニン症候群は改善するものの今度はセロトニン濃度が急激に下がる事で「離脱症状(例:レクサプロの離脱症状)」が生じる事があります。
セロトニンのはたらきを抑えるお薬(セロトニン拮抗薬)を用いる事もあり、症状が強く危険な場合には用いられます。
ペリアクチン(一般名:シプロヘプタジン)
ペリアクチンは本来は「抗ヒスタミン薬」と呼ばれるお薬で、花粉症などのアレルギー疾患や急性上気道炎(風邪)に伴うくしゃみ・鼻水などに用いられるお薬です。
ペリアクチンには抗ヒスタミン作用以外にも抗セロトニン作用(セロトニン拮抗作用)もある事が知られており、この作用を狙ってセロトニン症候群の治療に用いられる事があります。
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