今ではあまり使われなくなった言葉なのですが、以前は精神科のお薬は大きく2つに分類されていました。

1. メジャートランキライザー（Major Tranquilizer）
2. マイナートランキライザー（Minor Tranquilizer）

医療現場では「メジャー」とか「マイナー」といった呼び方をしていました。

2つのトランキライザーのうち特に「マイナートランキライザー」に焦点をあて、詳しく説明させて頂きます。

 

トランキライザーとは

少し前まで精神科のお薬は俗に「メジャー」「マイナー」と大きく2つに分類して呼んでいました。
「メジャー」「マイナー」とは正確には以下のようにいいます。

---

• メジャートランキライザー（Major Tranquilizer）
• マイナートランキライザー（Minor Tranquilizer）

---

まずは「トランキライザー（Tranquilizer）」とはどういったお薬の事なのかを説明しましょう。

トランキライザー（Tranquilizer）というのは、気持ちを落ち着かせる作用を持つお薬の事で、つまりは「精神安定剤」になります。

その中でも特に不安や興奮を鎮めて精神を穏やかにするような作用を持つ種類のお薬のことを「トランキライザー」と呼んでいたのです。

 

メジャートランキライザーとマイナートランキライザー

トランキライザーとは精神安定剤であることは説明しました。

それでは「メジャー」と「マイナー」でどのような違いがあるのでしょうか。

この2つ、「メジャー（主要な）」と「マイナー（主要でない）」は、鎮静させる強さによって分けられています。

メジャートランキライザーは鎮静力の強いお薬で、今で言う「抗精神病薬」の事になります。

【抗精神病薬】

神経に作用し、ドーパミンのはたらきをブロックするお薬。

主に幻覚や妄想などの精神病性の症状を抑える作用を持ち、統合失調症や双極性障害の治療に用いられる。

興奮を抑える作用に優れるため、パーソナリティー障害や認知症・不安障害などにおいても、興奮や衝動性を抑えるために用いられる事もある。

抗精神病薬は主に統合失調症の幻覚・妄想を抑えたり、双極性障害の躁状態を抑えたりと、周囲が理解できないほどに高揚してしまった精神状態を強力に鎮静させるはたらきを持ちます。

そのため「メジャー（主要な、強い）」「トランキライザー（精神安定剤）」と呼ばれていたのです。

一方でマイナートランキライザーは今で言う「抗不安薬」の事です。

この用語が使われていた頃は抗不安薬と言えばベンゾジアゼピン系抗不安薬しかなかったため、必然的にマイナートランキライザーとは「ベンゾジアゼピン系抗不安薬」の事を表していました。

マイナートランキライザー＝ベンゾジアゼピン系抗不安薬

【ベンゾジアゼピン系抗不安薬】

脳神経のうち、脳の活動を抑える方向にはたらく神経（抑制性神経）の作用を高めるお薬。

このはたらきによって心身がリラックス状態になり、抗不安作用・筋弛緩作用・催眠作用・抗けいれん作用などをもたらす。

ベンゾジアゼピン系抗不安薬は主にうつ病や不安障害（パニック障害や社会不安障害など）に処方され、統合失調症の幻覚・妄想や双極性障害を落ち着かせるのに比較して穏やかな鎮静作用であることから、メジャー（主要な）に対してマイナー（主要でない・強くない）トランキライザー（精神安定剤）と呼ばれるようになったのです。

マイナートランキライザーの種類

マイナートランキライザー（抗不安薬）には具体的にはどのようなお薬があるのでしょうか？

マイナートランキライザーは現在でいうベンゾジアゼピン系抗不安薬で、20種類以上のお薬があります。

どれも基本的な作用機序は「抑制性神経（脳をコントロールするブレーキ側の力）を活性化させる」という点です。

違いはその強さや作用時間・即効性などが異なるので、ここに着目して各お薬をみてみましょう。

不安を抑える作用の強さで分類

代表的な抗不安薬を、抗不安作用の強さを強・中・弱で示すと以下のようになります。

抗不安作用	商品名	一般名（成分名）
強	デパス	エチゾラム
	レキソタン セニラン	ブロマゼパム
	ワイパックス	ロラゼパム
	リボトリール ランドセン	クロナゼパム
	レスタス	フルトプラゼパム
中	ソラナックス コンスタン	アルプラゾラム
	セパゾン	クロキサゾラム
	セルシン ホリゾン	ジアゼパム
	メイラックス	ロフラゼプ
弱	グランダキシン	トフィソパム
	リーゼ	クロチアゼパマム
	セレナール	オキサゾラム
	バランス コントール	クロルジアゼポキシド

抗不安薬作用が強いものほどたしかに効いた感じも強いのですが、かといって強ければ強いほど良いというわけではありません。

一般的に作用が強ければ強いほど、副作用も多くなる傾向があります。

また特にベンゾジアゼピン系抗不安薬には耐性・依存性がある事が知られており、作用が強いほど耐性や依存性も生じやすくなります（やめられなくなるばかりでなく、量も増えてしまう）。

そのため適切な強さの抗不安薬を処方してもらうことが大切です。

抗不安薬を作用時間で分類

抗不安薬を、作用時間で分類すると以下のようになります。

作用時間	商品名	一般名
短	グランダキシン	トフィソパム
	リーゼ	クロチアゼパム
	デパス	エチゾラム
中	レキソタン セニラン	ブロマゼパム
	ワイパックス	ロラゼパム
	ソラナックス コンスタン	アルプラゾパム
	セパゾン	クロキサゾラム
長	セレナール	オキサゾラム
	バランス コントール	クロルジアゼポキシド
	セルシン ホリゾン	ジアゼパム
	リボトリール ランドセン	クロナゼパム
	メイラックス	ロフラゼプ
	レスタス	フルトプラゼパム

 

抗不安薬の強さ・作用時間一覧

以上の2つの軸である

抗不安作用の強さ
お薬の作用時間
から代表的な抗不安薬を比較すると次のようになります。

抗不安薬	作用時間（半減期）	抗不安作用
グランダキシン	短い（＜1h）	＋
リーゼ	短い（～6h）	＋
デパス	短い（-6h）	＋＋＋
ソラナックス コンスタン	中（14h）	＋＋
ワイパックス	中（12h）	＋＋＋
レキソタン セニラン	中（20h）	＋＋＋
セパゾン	中（-21h）	＋＋
セレナール	長い（56h）	＋
バランス コントール	長い（-24h）	＋
セルシン ホリゾン	長い（50h）	＋＋
リボトリール ランドセン	長い（27h）	＋＋＋
メイラックス	超長時間（-200h）	＋＋
レスタス	超長時間（-190h）	＋＋＋

「半減期」という言葉がありますが、半減期というのはそのお薬の血中濃度が半分になるまでにかかる時間のことで、作用時間を知る1つの目安になる値です。実際は半減期だけで作用時間を特定することはできませんが、目安の1つとしては有用です。

抗不安作用の強さは、強ければ強いほど良いというものではありません。
不安症状の強さに合わせるべきです。

不安症状は軽いのに念のため飲むことをするとどんどん耐性や依存を招いてしまいます。

また作用時間は、手間や微調整の必要性、安全性などを考えて選びます。

作用時間の短いものはすぐに効果がなくなってしまうため、1日に2-3回服薬しなければいけませんが、頓服（必要な時に服用する）に向きます。

一方で作用時間の長いものは、ゆっくり効果が出てくるため、効果を感じにくいのが欠点です。
しかし1日1回の服用などで良いため、手間的には楽になります。

また作用時間の長いものの方が基本的に耐性・依存性も生じにくいと考えられています。

現在はマイナートランキライザーと呼ばれなくなった・・・

マイナートランキライザーという名称は現在はほとんど用いられていません。

「マイナートランキライザー」から「抗不安薬」と呼ばれるようになりました。

ところで「メジャートランキライザー」「マイナートランキライザー」が使われなくなったのは何故でしょうか？

それはこのような分け方に医学的な妥当性が乏しいためです。

抗精神病薬（かつてのメジャー）も抗不安薬（かつてのマイナー）も脳の神経活動を落ち着かせ、精神を安定させる作用はあります。

また抗精神病薬の方が鎮静作用は強いので「メジャー（強い）」であり、抗不安薬は「マイナー（弱い）」と言えるかもしれません。

しかし抗精神病薬と抗不安薬は、そもそも全く作用機序が異なるお薬ですし、そもそもこの２つのお薬を対比させる意味はありません。

抗精神病薬（メジャー）は統合失調症や双極性障害などに用いられ、脳のドーパミンのはたらきを抑える事で、幻覚・妄想やそれに伴って生じている興奮・易怒性などを抑え、精神を安定させます。

一方で抗不安薬（マイナー）は、不安障害（不安神経症）やうつ病に伴う不安症状、心身症などに用いられ脳を落ち着かせる抑制性の神経を活性化させる（脳のブレーキをコントロールする）事で心身をリラックスさせ、不安を抑えて精神を安定させます。

このように両者は用いられる場面が異なり、メジャーとマイナーと対比させる意味はないのです。

以前のようにメジャー・マイナーとしてしまうと以下のような誤解を招いてしまします。

---

• メジャートランキライザー（強い精神安定剤）
• マイナートランキライザー（弱い精神安定剤）

---

これでは「マイナーが効かないときに、メジャーに切り替えれば良い」と考えてしまいがちです。

メジャートランキライザー（抗精神病薬）は、マイナートランキライザー（抗不安薬）を強力にし、抗不安薬を補填するものではありません。

ただ両者ともに精神を安定させる作用があるというだけで、作用機序の異なるお薬を無理矢理同じ系統にしかもマイナーを強くしたものがメジャーと誤解されやすいような分類は意味をなさないので、この呼び名は廃れてしまいました。

ちなみに現在は精神安定剤（トランキライザー）と言えば、抗不安薬を指します。