リスパダールは1996年に発売された抗精神病薬(主に統合失調症の治療薬)ですが、守備範囲は広く、双極性障害や認知症の興奮時、うつ病や発達障害、パーソナリティ障害など多くの疾患に応用され使われています。
抗精神病薬の中でも第2世代(非定型)という新しいタイプに属し、古い第一世代(定型)抗精神病薬と比べるとその副作用は少なく飲み続け安くはなっています。
リスパダールで特に注意すべき副作用について紹介させていただきます。
Contents
リスパダールの副作用の特徴
抗精神病薬は、その開発の進化によって大きく2世代に分けられます。
1950年頃から使われている古いタイプである、第1世代(定型)抗精神病薬と、1990年頃から使われている新しいタイプである第2世代(非定型)抗精神病薬です。
第1世代は、強力な作用がありますが、副作用も強力なのが難点でした。
そのため、副作用の軽減を目指して開発されたのが、第2世代で、リスパダールがそれにあたります。
第2世代は、第1世代と比べると以下のような副作用が出にくくなっています。
- 錐体外路症状(ふるえなどの神経症状)
- 高プロラクチン血症(ホルモンバランスの異常で生じる副作用、男性なのに女性様の乳房になったり乳汁を分泌したりなど)
- 悪性症候群(高熱で筋肉が壊死して、死に至ることもある危険な副作用)
危険な副作用、不快な副作用の頻度は下がったものの、逆にこれまでにはなかった副作用があります。
血糖やコレステロールなどを上昇させ、それに伴い動脈硬化や心筋梗塞、脳梗塞などの発症リスクを上げるといった副作用です。
総合的に見れば、第2世代の方が安全性は高いと考えられており、現在の統合失調症治療はリスパダールを含む第2世代の抗精神病薬から始めることが原則となっています。
<第2世代の抗精神病薬>
- SDA:セロトニン受容体とドーパミン受容体をしっかりとブロックする作用に優れる
- MARTA:様々な受容体をゆるくブロックする
- DSS:ドーパミン受容体を部分的にブロック、増強することによりドーパミン量を安定させる
この中でリスパダールはセロトニン-ドーパミン拮抗薬(SDA:Serotonin Dopamine Antagonist)という種類に属します。
セロトニンやドーパミンは神経伝達物質で、神経間のやりとりに関与する物質です。
受容体を受け取り口として神経伝達物質のやり取りを行います。
SDA(リスパダール)はセロトニン2A受容体とドーパミン2受容体をブロックするはたらきに特に優れ、その他の受容体にはあまり作用しません。
統合失調症はドーパミンの過剰分泌が原因の一つだと考えられているため、ドーパミンを遮断してくれるリスパダールは効率よく統合失調症の症状を抑えてくれます。
また、それ以外の余計な受容体に作用しないので、副作用も少なくなっています。
しかし、リスパダールはドーパミン2受容体を強力にブロックする反面、過剰にブロックしてしまうと副作用を起こしてしまいます(具体的には、第一世代の抗精神病薬の副作用であるふるえやホルモン異常など)。
また、アドレナリン1受容体への影響がやや強く、これによって起立性低血圧によるふらつき、性機能障害(射精障害、勃起障害など)を起こしやすいという特徴があります。
- 第1世代と比べると全体的に副作用は軽め
- しかしドーパミンを遮断しすぎることで、第二世代の中ではドーパミン欠乏の副作用が起こりやすい(錐体外路症状(EPS)や高プロラクチン血症など)
- アドレナリン1受容体遮断によるふらつき、性機能障害が多い
- その他の副作用(体重増加や口渇・便秘、眠気など)は少なめ
リスパダールの主な副作用
リスパダールの主な副作用についてひとつずつみていきましょう。
Ⅰ.錐体外路症状(EPS)
統合失調症は脳のドーパミン過剰で発症すると考えられていますが、おくすりで逆に脳のドーパミンを少なくしすぎてしまうと生じるのが、錐体外路症状です。
リスパダールの錐体外路症状の頻度は、定型と比べると少ないものの、非定型の中ではやや多めになります。
錐体外路症状とは以下のような無意識に身体が動いてしまう症状をいいます。
- 振戦(手先のふるえ)
- 筋強直(筋肉が硬く、動かしずらくなる)
- アカシジア(足がムズムズしてじっとしてられなくなる)
- ジスキネジア(手足が勝手に動いてしまう、口をもごもごするなど)
命に関わるものではありませんが非常に不快な症状です。
錐体外路症状は過剰なドーパミンブロックによって起こりますので、特に高用量のリスパダールを服用している場合に起きやすいと言えます。
対処法
基本リスパダールの減薬を行うのが良いのですが、病状的にどうしても減薬ができないというケースもあるでしょう。
最も多くみられる対処法としては別の薬で症状を軽減させるやり方です。
場合によっては、リスパダールを処方すると同時にお守り替わりに一緒に処方している先生もいらっしゃいます。
抗コリン薬と呼ばれるお薬で具体的にはビペリデン(商品名アキネトン)やプロフェナミン(商品名パーキン)、トキヘキシフェニジル(商品名アーテン)などです。
抗コリン薬によってアセチルコリン神経の活性を抑制してあげると、ドーパミン神経の活性が相対的に上がり、錐体外路症状に効果があるのです。
ただ、お薬による副作用を薬で制するのはあまり推奨できる方法ではありません。
お薬の量がどんどん増えてしまいますし、抗コリン薬にだって別の副作用があるからです。
基本的には減薬できないかトライするのと、難しければ他の第二世代の抗精神病薬に変更を検討するのが良いと思います。
Ⅱ.高プロラクチン血症
高プロラクチン血症というのは、脳下垂体から出る「プロラクチン」というホルモンの量が多くなってしまうことをいいます。
これで何が問題になるかというと、プロラクチンというホルモンが本来何をしているかを理解していただく必要があります。
本来は授乳中の女性で上昇しているホルモンで、授乳中の女性は胸が張り、乳汁が出て、月経が止まります。
高プロラクチン血症になるとこれと同じ状態になるため、胸の張り、乳汁分泌、月経不順、性欲低下などが生じます。
リスパダールではこれが男性にも起こってしまい、男性であれば女性化乳房、性欲低下、勃起障害などが生じてしまいます。
原因は、リスパダールによってドーパミン受容体がブロックされると、プロラクチンがたくさん出てしまうというもともとの機能によります。
実は問題はこれだけではありません。
一番の問題は、プロラクチンが高い状態が続くと乳がんになる可能性が高くなります。
また、骨代謝に影響を与えて骨粗しょう症にもなりやすくなります。
そのため、高プロラクチン血症は、単なる乳房の症状というだけではありませんので、速やかに対処することが望まれます。
リスパダールで高プロラクチン血症が出現した時は、原則としてリスパダールを中止する必要があります。
Ⅲ.ふらつき
リスパダールのヒスタミン受容体のブロック作用によって眠気が生じてふらつくこともありますし、アドレナリン1受容体のブロックは血圧を下げてしまうため、これもふらつきの原因となるなど複数の要因で起こります。
ふらつきがひどい場合にはリスパダールの減薬・あるいは変薬を行います。
また昇圧剤(リズミック、メトリジンなど)など血圧を上げるお薬で対応することも可能です。
Ⅳ.体重増加
体重増加、太ってしまうのは精神科のお薬ではよくある副作用ですが、特に抗精神病薬で顕著です。
これは抗精神病薬が、ヒスタミン1受容体、セロトニン2C受容体をブロックして代謝を抑制し、また血糖やコレステロール濃度が上昇すること原因となります。
リスパダールは、ヒスタミン1受容体への影響は軽度であり、体重増加は比較的すくなめのはずですが、長期間服薬を続けていれば徐々に体重増加は起こってしまいます。
抗精神病薬は、血糖やコレステロールを上げると報告されており、これは動脈硬化を進行させ心筋梗塞や脳梗塞発症のリスクとなります。
リスパダール内服中は、食生活の偏りや運動不足などの太りやすい習慣がある場合は、そこを是正することが重要ですが、結局は減薬しない限り痩せれない例もあります。
薬を中止すればいくらか痩せますが、勝手に戻ることはないので日ごろから十分注意しておくのが良いでしょう。
Ⅴ.口渇、便秘(抗コリン作用)
抗コリン作用もまた多くの精神科のお薬で認められる作用で、お薬がアセチルコリン受容体に結合して神経伝達をブロックしてしまうことで生じます。
口渇や便秘が代表的ですが、他にも尿閉、顔面紅潮、めまい、悪心、眠気なども起こることがあります。
リスパダールの抗コリン作用は弱めであり、これらの副作用の頻度は少なめです。
抗コリン作用への対応策としては、減薬が一番ですがそれができない場合、抗コリン作用を和らげるお薬を処方します。
- 便秘に対しては下剤(マグラックス、アローゼン、大建中湯など)
- 口渇に対しては漢方薬(白虎加人参湯など)
Ⅵ.眠気
眠気は、主にヒスタミン受容体をブロックすることで生じます。(他にもアドレナリン受容体やセロトニン2受容体なども多少関与している考えられています。)
リスパダールはヒスタミン受容体への影響は少ないため、眠気の頻度は多くはありません。
日中にどうしても眠気が出てしまう場合には、飲み初めであれば1-2週間で身体が慣れて眠気が出なくなる可能性もあります。
症状が続く場合には用量の調整が必要になります。
お薬そのものを減量する相談を主治医とするか、1日2回朝夕で内服するお薬ですから、朝を少な目、夕に量を多めにするなどの工夫も可能です。
Ⅶ.不整脈
抗精神病薬の中でも古い第1世代に多い副作用で、リスパダールなどの第2世代では稀な副作用になります。
特に注意すべきなのがQT延長という心電図上の変化です(この変化は、無症状で症状がでるときはすでに危険な不整脈を起こした時です)。
これを放置していると致命的な不整脈を起こす可能性があります。
抗精神病薬を飲んでいる間は、心電図検査は重要です(健診を受けている方はその心電図で十分わかります)。
Ⅷ.悪性症候群
悪性症候群は、ドーパミン量の急な増減が誘因となることが多く、急な減薬・増薬によって生じることがあります。
第2世代の抗精神病薬であるリスパダールではほとんど生じませんが、可能性は「0」ではありません。
悪性症候群では、
- 発熱(高熱)
- 意識障害(意識がボーッとしたり、無くなったりすること)
- 錐体外路症状(無意識のうちに身体の一部がうごいてしまう症状。筋肉のこわばり、四肢の震えや痙攣、よだれが出たり話しずらくなるなど)
- 自律神経症状(血圧が上がったり、呼吸が荒くなったり、脈が速くなったりする)
- 横紋筋融解(筋肉が破壊されその影響で筋肉痛だけでなく腎不全、透析の原因になる)
などが生じ、致命的になってしまうこともあります。
3.他の抗精神病薬とリスパダールの副作用比較
抗精神病薬 | EPS 高PRL血症 | 体重増加 | ふらつき | 性機能障害 | 眠気 | 便秘・口渇 |
---|---|---|---|---|---|---|
リスパダール (SDA) | +++ | ++ | ++ | ++ | + | ± |
インヴェガ (SDA) | ++ | + | + | + | + | ± |
ロナセン (SDA) | +++ | ± | ± | ± | ± | + |
ルーラン (SDA) | ++ | + | + | + | + | ± |
ジプレキサ (MARTA) | ++ | ++++ | ++ | ++ | ++++ | +++ |
セロクエル (MARTA) | + | ++++ | ++ | ++ | ++++ | + |
シクレスト (MARTA) | + | + | + | + | ++ | ± |
エビリファイ (DSS) | ++ | ± | + | + | ± | ± |
レキサルティ (SDAM) | + | ± | ± | ± | + | ± |
セレネース (定型) | ++++ | + | +++ | +++ | + | + |
コントミン (定型) | +++++ | +++ | ++++ | ++++ | +++ | ++++ |
*EPS・・・錐体外路症状 *高PRL・・・高プロラクチン血症 |
リスパダールの副作用の特徴として、第一世代の抗精神病薬よりは副作用は少ないものの、新しい世代の中では錐体外路症状や高プロラクチン血症はやや多め、体重増加や眠気はときに認めるということが言えます。
リスパダールによる眠気の原因と対処法
リスパダールで眠気が生じるのは「抗ヒスタミン作用」というはたらきが主な原因です。
抗ヒスタミン作用というのは、リスパダールがヒスタミンという神経伝達物質の働きを抑えてしまうことで生じる作用です。
花粉症やアレルギーのお薬に「抗ヒスタミン薬」があります。
抗ヒスタミン薬も、ヒスタミンのはたらきをブロックする作用を持ち眠気が強く出てしまうことは飲んだことがある人ならわかるでしょう。
同じ原理でリスパダールも眠気を引き起こします。
ただ、リスパダールはヒスタミンへの影響は比較的少なく、リスパダールは眠気が少ないおくすりになっています。
他の抗精神病薬との眠気の起こりやすさの比較
抗精神病薬 | 眠気 |
---|---|
リスパダール (SDA) | + |
インヴェガ (SDA) | + |
ロナセン (SDA) | ± |
ルーラン (SDA) | + |
ジプレキサ (MARTA) | ++++ |
セロクエル (MARTA) | ++++ |
シクレスト (MARTA) | ++ |
エビリファイ (DSS) | ± |
レキサルティ (SDAM) | + |
セレネース (定型) | + |
コントミン (定型) | +++ |
*EPS・・・錐体外路症状 *高PRL・・・高プロラクチン血症 |
眠気への対処法
様子を見る
まだリスパダールを飲み始めたばかりなのであれば、少し様子をみるのが最も良い選択肢です。
幸いお薬の副作用は、時間が経つと身体が慣れてきて眠気は改善することがあります。
他のお薬との飲み合わせに問題はないか
一緒に飲んでいる薬(飲み合わせ)によっては、リスパダールの副作用を強くしてしまうことがあります。
多いのはアルコールで、飲酒をしながらリスパダールを飲んでいたら、 血中濃度が不安定になるため眠気が強く出る可能性があります。
他にもリスパダールの作用・副作用を増強してしまうおくすりはいくつかあります。
例えば、CYP2D6の阻害作用を持つおくすりはリスパダールの血中濃度を上げてしまうことが報告されています。
多くの抗うつ剤(SSRIやSNRI、NaSSAなど)はCYP2D6の阻害作用を持ちますので、これらを服用している場合は、リスパダールはより少量でも良いかもしれません。
これらを一緒に服薬してはいけないわけではありませんが、両方服薬している場合は相互作用するということも考えながら服薬量を決める必要があります。
その他、相互作用するおくすりもありますので、主治医とよく相談にて服薬内容を決めていきましょう。
服用時間を変える
リスパダールは添付文書には「1日2回の服用」と記載されています。
眠気で困っているのであれば、眠気が出てしまうと特に困る時間に、薬の血中濃度のピークが来ないようにするのが良いでしょう。
飲む時間を工夫することで、変わることがありますの試してみる価値はあります。
減薬・変薬をする
リスパダールの効果を感じているのであれば、薬を変えてしまうのはもったいないので、まずは量を少し減らしてみてもいいかもしれません。
量を少し減らしてみて、症状の悪化も認めず、眠気も軽くなるようであればその量で維持していきましょう。
また、パリペリドン(商品名:インヴェガ)やリスペリドン持効性懸濁注射液(商品名:リスパダールコンスタ)に変更するのも有効な方法です。
※リスパダールの副作用を少ないように改良したのがインヴェガになります。
リスパダールで太ってしまった場合の対処法・太らないために
精神科のお薬の多くは太るという副作用があり、リスパダールも例外ではありません。
太る可能性のあるおくすりですがその程度は同種類の第2世代抗精神病薬の中では、やや少なめではあります。
リスパダールを内服をする前に「太る可能性がある」と知っておくことは大切です。
特に若い方や女性は体重増加に過敏であり、太ってしまうと大きなショックを受ける方は少なくありません。
やめればすぐに戻るという類の副作用でもなく、お薬をやめた後もダイエットは必要です。
太ってしまう2つの作用
主に「抗ヒスタミン作用」と「代謝抑制作用」が原因です。
抗ヒスタミン作用とは、抗精神病薬がヒスタミン1受容体をブロックしてしまうことで生じます。
ヒスタミンには食欲を抑えるはたらきがあり、ヒスタミン受容体がお薬によってブロックされてしまうと食欲を抑えることができなくなるため、食事量が増えてしまい、太ってしまうのです。
同時に代謝を落とす方向に働くため、脂肪が燃焼しにくくなり、薬を飲む前と同じ量の食事であっても体重増加を引き起こしてしまうのです。
リスパダールはまだましな方かもしれない・・・
リスパダールは抗精神病薬の中では、体重増加の程度はやや少なめではあります。
抗精神病薬 | 体重増加 |
---|---|
リスパダール (SDA) | ++ |
インヴェガ (SDA) | + |
ロナセン (SDA) | ± |
ルーラン (SDA) | + |
ジプレキサ (MARTA) | ++++ |
セロクエル (MARTA) | ++++ |
シクレスト (MARTA) | + |
エビリファイ (DSS) | ± |
レキサルティ (SDAM) | ± |
セレネース (定型) | + |
コントミン (定型) | +++ |
あくまでも目安で、リスパダールだから大丈夫というわけでもありません。
リスパダールでも油断していると10㎏以上太ったという方は多くいます。
リスパダールで太ってしまった時の対処法
副作用で太る太らないに限らず、生活習慣には注意が必要です。
薬を飲む前までより食欲が出てしまいやすいですし、同じ量を食べていても太るように体質が変わっています。
食事量、間食に中止しつつ身体はなるべく動かすようにしたいです。
特に、症状が改善してお薬を減薬していく際には元の体型にもどるためには食事と運動は必須です。
リスパダールの量を減薬
もし精神状態が安定しているのであれば、 減薬は賢明な選択と言えます。
ここも注意が必要ですが、お薬を減らしたからと言ってその分体重が落ちるわけではありません。
食事に気を付けて、最低限身体は動かす必要があります。
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