ジェイゾロフト(ジェネリック:セルトラリン錠)は抗うつ剤です。
抗うつ剤の中でもSSRI(選択的セロトニン再取込み阻害薬)という種類に属し、神経伝達物質「セロトニン」を増やし抗うつ効果や抗不安作用を発揮します。
精神に作用するお薬(向精神薬)は、服用を続けていると太りやすいものが多くあり、ジェイゾロフトも太ってしまうお薬です。
ところがネット上やSNSに「ジェイゾロフトは痩せる」という書き込みがあり、太るという噂とともに痩せるという噂もあります。
これはいったいどちらが正解なのでしょうか?
実はどちらも正解なのです。
「では自分はどっちになっちゃうの?」、「痩せるならまだしも太るのは・・・・」
ジェイゾロフトの体重の変化に関する副作用について解説しましょう!。
Contents
痩せもするし、太りもする
ジェイゾロフトは数か月以上長期に内服していると基本的に太る可能性のあるお薬です。
ただ、ジェイゾロフトの添付文書では体重について以下のように記載があります。
- 体重増加(頻度:1%未満)
- 体重減少(頻度:1%未満)
体重増加(太る)と体重減少(痩せる)の両方の報告があるのですが、これはどういうことでしょうか?
実は、一時的に痩せる事はあり、長期的に見て太るという意味なのです。
添付文書は発売後の試験データをもとに作られていますが、ある一定期間の間では痩せる人と太る人が同程度いたのです。
もちろん痩せた人もさらに内服を続ければ太った可能性があります。
むしろその可能性の方が高いはずです。
ジェイゾロフトは、飲み初め初期は「下痢」や「吐き気」を起こしやすい特徴があり、最初は痩せる傾向があるのです。
しかし長期的にみると、ジェイゾロフトは確実に太る方向(運が良くても痩せ続けることはよっぽどなことがない限りない)と考えられます。
体重減少の記載が添付文書にあるのは、下痢や食欲不振などによる一過性の体重減少をとらえたためだと思われます。
大抵の場合、抗うつ剤はある程度長い期間服用するものです。そのため一時的には痩せても、長期的みれば太る方向になることがほとんどです。
痩せるのは最初だけ
ジェイゾロフトで痩せるのは、飲み始めの頃だけ痩せることがあるというだけなのです。
長期的に見れば基本的に太る方向に向かいます。
ジェイゾロフトを飲み始めると、しばしば「下痢」「吐き気」「食欲不振」などの副作用が生じます。
下痢が続けば体重は落ちるし、吐き気や食欲不振でもまた当然痩せていきます。
飲み始めて1-2週間経つと副作用は改善します。
今度は抗うつ効果が出始めるとともに、代謝をおさえてしまいエネルギー消費の悪い身体にかわっていきます。
すると食事量も戻り、代謝が悪いために元々の食事量を摂取しても結果太っていってしまうのです。
ほとんどが現状維持が太る方向で、痩せ続けていくというケースは稀です。
なぜ太る!?その原因とは?
これはジェイゾロフトだけでなく、多くの抗うつ剤に共通するのですが、このお薬が持つ2つの作用によります。
- 抗ヒスタミン作用
- 代謝抑制作用
抗ヒスタミン作用で食欲UP!
ヒスタミンとは、セロトニンと同様に神経伝達物質の1つです。
ジェイゾロフトには抗ヒスタミン作用といって、ヒスタミンによる神経伝達をブロックしてしまう作用があるのです。
ちなみに、抗ヒスタミン作用で有名なお薬は風邪薬や花粉症などのアレルギー薬です。
神経伝達物質ヒスタミンの様々な作用の1つに「食欲を抑える」作用があります。
ヒスタミンをブロックするということは「食欲がおさえられない」ということになります。
代謝が抑えられて太りやすい体質に・・・
また代謝抑制作用というのは、エネルギーの消費量が落ちるということです。
車ならうれしい作用ですが、人間にとっては余計なお世話です。
代謝が落ちれば、仮にいつもと同じ食事量でもエネルギーが余って脂肪として蓄えられてしまうのです。
他の抗うつ剤と比べて太りやすいの?
ジェイゾロフトは他の抗うつ剤と比べると太りやすい部類ではありません。
なるべく体重増加を起こしたくない場合には、良いでしょう。
もちろん絶対に太らないわけではありませんが、太りやすい抗うつ剤よりはましという意味です。
ちなみに太りやすいお薬は抗ヒスタミン作用が強い以下の3種類です。
- リフレックス・レメロン(一般名:ミルタザピン)
- パキシル(一般名:パロキセチン)
- 三環系抗うつ剤
第一選択になる抗うつ剤の中でそれでも太りにくいお薬は、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取込阻害薬)になります。
(※SNRIに属するお薬:トレドミン、サインバルタ、イフェクサー)
SNRIはジェイゾロフトの属するSSRIとは少し異なる分類の抗うつ剤で「セロトニン」だけでなく、「ノルアドレナリン」という代謝を促進させるアドレナリン系を増やす作用があるのです。
抗うつ剤の種類 | 抗うつ剤 | 太りやすさ |
---|---|---|
三環系 | トフラニール | ++ |
三環系 | トリプタノール | +++ |
三環系 | アナフラニール | ++ |
三環系 | ノリトレン | ++ |
三環系 | アモキサン | ++ |
四環系 | ルジオミール マプロチリン | ++ |
四環系 | テトラミド ミアンセリン | + |
SSRI | パキシル パロキセチン | ++ |
SSRI | ルボックス デプロメール | + |
SSRI | ジェイゾロフト セルトラリン | + |
SSRI | レクサプロ | + |
SNRI | トレドミン ミルナシプラン | ± |
SNRI | サインバルタ | ± |
NaSSA | リフレックス レメロン | +++ |
その他 | デジレル レスリン | + |
その他 | ドグマチール スルピリド | + |
体重増加への対策
「精神科のお薬」=「太る」はかなり有名なようで多くの患者さんに聞かれます。
ただ必ずしも薬だけが原因であるとは思わないで欲しいのです。
お薬でも食欲は増え・代謝は落ちるしと、たしかに太りやすい体質にはなってしまいます。
しかし、状態が不安定であればその症状によって過食になっていることもあるのです。
精神が不調な時は太りやすいというのもまた事実で、治療することで逆に過食が治まることもあるのです。
(症状としての過食であれば、気分安定薬で落ち着くこともあり、そうであればジェイゾロフトを減薬することが可能かもしれません。)
以上のことをご理解いただいたうえで、対策について解説しましょう。
飲み始めたら生活習慣に注意する
規則正しい生活、適度な運動などの代謝を改善することは重要です。
あくまで抗うつ剤は太りやすくなるというだけで、勝手には太りません。
間食に注意しつつ、軽い運動をできたら取り入れましょう。
食事も早食いはせず、よく噛むこと=太りにくさの有効性も言われています。
減薬する
状態が安定しているのであれば、減薬は有効です。
ただし、うつ治療においては十分量を十分な期間内服するという原則があります。
基本少しぽっちゃりしてきても、医師側からその期間中に減薬を支持するのは糖尿病のリスクが高まったり、高血圧が目立ったり、脂肪肝で肝障害が進行した時です。
美容目的で減薬はしません。
治療期間中で、(残念ながら?)身体が健康な場合には自助努力が促されることでしょう!
別の抗うつ剤に変更する
別の抗うつ剤に変えるは理論的に有効ですが、私はあまりやりません。
薬を変えるときに、状態が変わったり他の副作用が出たり、ときに離脱症状がでることもあるからです。
という手もあります。
薬を変える上で候補に挙がる「太りにくい」SNRIでしょうか。
- サインバルタ(一般名:デュロキセチン)
- トレドミン(一般名:ミルナシプラン)
- イフェクサー(一般名:ベンラファキシン)
また、四環系抗うつ剤やデジレル・レスリン(一般名:トラゾドン)なども体重増加の副作用は少なめです。
これらは第一選択の抗うつ剤ではなく、抗うつ作用も弱いのでよっぽどなことがない限り、ジェイゾロフトをやめてまでこちらへの変更はないでしょう。
太った体重は元に戻せる?
残念ながら、減薬や中止して勝手に戻ることはありません。
生活習慣(食事と運動)を正し、ダイエットは必要になります。
もちろん過剰なダイエットは不要です。
お薬の減薬や中止によって太りやすい体質は改善します。
ただし痩せる方向に動かなければ勝手に改善はありません。
実際、患者さんからも「やめれたから勝手に痩せるものかと思ってた」と残念がられたことがあります。
まとめ-ジェイゾロフトと体重変化-
ジェイゾロフトの服用で太りやすい体質にはなりますが、その程度は他の抗うつ剤と比べると弱めです。
内服し始めはむしろ下痢や吐き気などで体重は落ちやすいのですが、数か月のスパンでは太りやすい方向に作用していきます。
体重増加が生じても、安易にお薬の中断は好ましくなく、体重は戻らないばかりか病状の悪化を招き過食症状が出ればもとより状況は悪化しかねません。
ジェイゾロフトを飲み始めたら「生活習慣」に注意しつつ、過度に太るようであれば「ジェイゾロフトの減薬」「他の抗うつ剤への切り替え」などの対処法をとります。
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